医師の有給休暇の取得と課題【ワークライフバランスを考えよう】
医師にも休暇は必要ですが、実際には有給休暇を取得しにくいのが現状です。 医師が有給休暇を取得しやすい職場には、いくつかの特徴があります。
この記事では、医師が有給休暇を取る条件と計算方法、取得しやすい勤務先や診療科目について解説します。記事を読めば、医師の労働環境が分かります。
医師の有給休暇
医師も一般の労働者と同様に、労働基準法により有給休暇を取得する権利があります。
有給休暇を取得する条件
有給休暇を取得するためには、いくつかの条件があります。基本的には、勤務開始から半年経過すると、10日の有給休暇が付与され、勤続年数が増えるごとに休暇日数も多くなります。勤めている病院やクリニックの規模は問いません。
有給休暇は、週に4日以上働いている常勤医師が対象です。勤務先の就業規則で設けられている条件も満たす必要があります。非常勤やアルバイトの医師は条件に当てはまらないため、有給休暇を得られない可能性があります。
過去1年間の出勤実績が80%以上であることも、有給休暇を取得するための重要な基準です。長期にわたって休暇を取っていた場合などは、条件を満たせないこともあるので注意が必要です。
有給休暇を取得するためには、事前に休暇の希望を勤務先に提出し、承認を得る必要があります。医療機関側が人員配置や診療スケジュールを調整するためです。勤務先でどのような手続きが必要かを確認し、適切な申請を心がけましょう。
年次有給休暇の計算方法
年次有給休暇の計算方法は、勤務している期間と週の所定労働日数によって異なります。勤続6か月以上の医師で、週に4日以上働いている場合、最低10日間の有給休暇が与えられます。勤続6か月に達した時点で付与され、以降は1年ごとに日数が増えていくのが一般的です。
勤続年数が増えるにつれて、最大で20日まで有給休暇日数が増加することがあります。週の勤務日数が多いほど、より多くの有給休暇を得られることが多いです。週4日勤務で10日、週5日勤務で11日が付与されます。
有給休暇は半日単位で取得できますが、通常、取得希望日の2週間前までに申し出る必要があります。未消化の有給休暇がある場合、次の年度に繰り越すことが可能ですが、法律で定められた2年間が期限です。繰り越した有給休暇は翌年度の最初の2か月間有効です。
雇用契約や就業規則で計算方法や付与条件が異なることがあるため、勤務先のルールを確認する必要があります。年次有給休暇の計算には、公休日、休業日、休暇日は含まれない点に注意が必要です。
有給休暇の消化率
日本の医師の有給休暇の消化率は一般的に低く、平均消化率は約50%程度です。医療現場の忙しさや、有給を取ることに対するためらいを生む職場文化などが理由とされています。
年間で1日も有給休暇を取得しない医師もいると報告されています。他の職種と比較しても、医師は有給を取得しにくい環境です。
医師が有給休暇を取得しにくい理由
医師が有給休暇を取得しにくい理由は、複数の要因が影響しています。主な要因は以下のとおりです。
- 医師特有の労働環境
- 医療機関の体制
複合的な要因が絡み合い、医師の有給休暇取得を困難にしています。
医師特有の労働環境
医師特有の労働環境は、他の職業に比べて特殊で厳しいため、有給休暇の取得が難しいことが多いです。患者さんの健康や命を守る重大な責任を担っていることに起因しています。
多くの医師が長時間労働を余儀なくされます。 病院によっては、夜間や週末にも勤務する必要があり、当直や夜間勤務が多いことが普通です。患者さんの急変に対応するため、休日でも呼び出されることがあります。
病院内の人員不足や、他のスタッフに迷惑をかけたくない責任感から自ら休暇を取得しづらい文化も根強いです。研修医や若手医師は勤務時間が長くなりがちで、休暇を取ることがさらに困難になります。
医師は自分の健康やプライベートな時間を犠牲にしてまで、仕事を優先することが多くなります。医師の労働環境の厳しさが、有給休暇を取りにくい大きな要因です。
医療機関の体制
医療機関では医師の有給休暇取得は困難です。理由のひとつに、人員の不足が挙げられます。医師一人ひとりに課される業務量が増加し、休暇が取得しづらい環境です。緊急手術や治療が必要な場合、医師が不在だと支障をきたすため、医療機関は有給休暇の取得を抑制する傾向にあります。
医療機関のスケジュールの複雑さも休暇取得を障害するひとつです。代替医師を探す必要が出てくるため、経営側からの圧力も存在します。看護師や技師など他の医療スタッフとの協調も欠かせないため、スケジュール調整が休暇取得の大きな障害となっています。
» おすすめの病院向け勤怠管理システム
医師自身の強い責任感も、休暇の取得を躊躇させる原因のひとつです。患者への影響を考慮するあまり、休みを取ることが難しい風土が根付いています。シフト制ではない場合、有給休暇の取得計画自体が立てにくいです。さまざまな要因が複合して、医師が有給休暇を取得しにくい体制になっているのが実情です。
医師が有給休暇を取得しやすい勤務先の特徴
医師が有給休暇を取得しやすい勤務先には、特定の特徴があります。有給休暇を取得しやすい特徴は以下のとおりです。
- 医師の数が多い
- 入院施設がない
- 臨床に携わらない
医師の数が多い
医師の数が多い勤務先では、有給休暇を取得しやすい環境が整っています。医師一人あたりの患者数が相対的に少ないため、個々の医師の負担が軽減されます。
医師が多ければシフト調整がしやすくなり、休暇を取る際に他の医師がカバーしやすくなるのです。非常勤医師を雇用する余裕も生まれ、休暇中の業務をサポートする体制が整いやすくなります。医師同士の協力体制もより整っているため、スムーズに休暇を取得することが可能です。
入院施設がない
入院施設がない勤務先は、入院患者の管理が必要ないため、医師の急な休暇にも柔軟に対応できます。クリニックや診療所で働く医師は、夜間や休日の当直がなく、日勤のみで勤務が終わるのが一般的です。
定時で仕事が終わることが多く、家庭や趣味、自己研鑽など個人の時間を大切にできるメリットがあります。外来患者のみを対象とした人員配置のため、代替医師の手配もしやすく、急な予定変更にも対応しやすい環境です。
緊急対応が少ないため予定通りに有給休暇を取得しやすく、メンタルヘルスの保持やワークライフバランスを維持しやすくなります。
臨床に携わらない
臨床に携わらない医師は、治療や診療を行わないため、有給休暇の取得が比較的しやすい環境です。臨床とは、患者さんの診療や治療に直接関わる医療活動のことを指します。
研究職や管理職、公衆衛生や保健所勤務などの公共医療関連職、医学教育や医療コンサルタントなどが挙げられます。医療機器企業や製薬会社に勤務する医師や、別の分野で専門的な仕事をしている医師も、有給休暇を取得できることが多いです。
仕事とプライベートのバランスを保ちやすい環境が整っていることが、有給休暇の取得しやすさにつながります。
医師が有給休暇を取りやすい診療科目
医師が有給休暇を取得しやすい診療科目には特徴があります。有給休暇を取得しやすい診療科目は以下のとおりです。
- 一般内科
- 小児科
- 麻酔科
ワークライフバランスを重視する医師にとって、休暇取得のしやすさは大きな魅力です。ライフスタイルに合わせた診療科目を選ぶことは、ストレスの少ない働き方につながります。
一般内科
一般内科は患者の健康管理や慢性疾患のケアを行う診療科であり、緊急性が低いケースが多いのが特徴です。外来診療は予約制が可能で、患者さんの流れが安定していて計画的にスケジュールを組めます。
院内の他科との連携もスムーズで、スケジュール調整をしやすいため有給休暇の取得計画を立てやすくなります。一般内科医は、幅広い疾患に対応できる知識と経験を持っているため、業務を他の医師に引き継ぎやすいです。
小児科
小児科は予定診療や予防接種が多いため、仕事のスケジュールを事前に計画しやすく、時間をコントロールしやすいです。重篤な急患が比較的少ないため、シフト調整がしやすいメリットもあります。
季節によって病気のピークを迎えることも小児科の特徴ですが、オフシーズンは仕事が落ち着くため、休暇を取りやすくなります。スタッフ間で互いにカバーし合う体制が整っている場合が多く、有給休暇を取得しやすい環境です。
大学病院や専門病院などでは、研究や教育に携わる機会もあり、臨床以外の活動に柔軟に時間を割くことが可能です。
麻酔科
麻酔科は手術スケジュールが事前にはっきりしているため、有給休暇を取りやすいです。シフト制の勤務が多く、手術が予定されていない日は計画的に休暇を取れます。
緊急手術の必要がない限り、休暇の取得が比較的容易です。他の麻酔科医と連携してスケジュールを調整し、有給休暇が取得しやすい環境になっています。代替医師の配置が比較的容易で、手術のスケジュール調整をスムーズに行いやすいのも特徴です。
まとめ
医師が有給休暇を取得する際は、勤務年数や勤務日数に基づいて年次有給休暇の日数が計算されます。しかし、医師の有給休暇の消化率は低く、特有の労働環境や医療機関の体制に起因していると考えられます。
一方で、医師が多い勤務先や、入院施設がない場所、臨床から離れた職場では、比較的有給休暇の取得がしやすいです。診療科目によっても差があり、一般内科、小児科、麻酔科などでは有給が取りやすい傾向にあります。
医師が働きやすい環境を整えることは、医療の質を向上させるためにも極めて重要です。有給休暇取得のしやすさを改善することは、医療界全体にとっても重要な課題と言えます。
» 病院向け勤怠管理システムとは?メリットと選び方