労働時間のガイドラインとは?内容や適用範囲、遵守するメリットを解説
労働時間の管理は重要な課題です。しかし、複雑な法律や従業員の健康と生産性のバランスに、多くの企業が苦心しています。本記事では、労働時間ガイドラインの基礎知識や実践的な運用方法を詳しく解説します。記事を読めば、労働時間管理の重要性を理解でき、効果的な管理方法を身に付けることが可能です。
労働時間ガイドラインを遵守すれば、従業員の健康を守り、生産性を向上させられます。労働基準法違反のリスクを回避し、企業を健全に運営しましょう。
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労働時間ガイドラインの基礎知識
使用者には、労働時間を適正に把握する責務があります。労働時間は、労働者の行動が使用者の指揮命令下にある時間を指し、実労働時間を基本として算定します。労働時間の記録は5年間保存する必要があり、管理者の設置も重要です。
労働時間ガイドラインの必要性
労働時間ガイドラインは、労働者の健康と権利を守るための重要な指針です。長時間労働による健康被害や過労死を防ぐことが最大の目的で、ワークライフバランスの向上にも役立ちます。ガイドラインの効果は、以下のとおりです。
- 労働生産性の向上
- 企業の法令遵守と社会的責任
- 労働者の権利保護
- 適正な労働時間の管理
労働時間ガイドラインを守ることは、企業にとってもイメージ向上や人材確保・定着につながります。労働基準監督署の指導や罰則も回避できます。労働時間の可視化は、業務効率化やメンタルヘルス対策にも効果的です。労働時間ガイドラインは、労働者と企業の双方にとって欠かせません。
労働時間ガイドラインの主な対象
労働時間ガイドラインの対象は、主に一般労働者ですが、管理監督者や裁量労働制の適用者も含まれます。対象者は、以下のとおりです。
- 一般労働者
- 管理監督者
- 裁量労働制の適用者
- みなし労働時間制の適用者
- 事業場外労働のみなし労働時間制の適用者
雇用形態や働き方に応じて、アルバイトやパートタイム労働者、研修生、派遣労働者などが対象となります。テレワーク労働者や変形労働時間制の適用者なども含まれます。労働時間ガイドラインは幅広い労働者が対象です。労働者の権利を守り、健康的な労働環境を整えるために重要な役割を果たしています。
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労働時間ガイドラインの内容
労働時間ガイドラインの主な内容は、以下のとおりです。
- 始業・終業時刻の確認と記録
- 労働時間の客観的記録
- 労働時間の記録保存義務
- 労働時間管理者の役割
- 賃金台帳の適正な調製
- 労働時間等設定改善委員会等の活用
使用者の責務として、労働時間ガイドラインを遵守しましょう。
始業・終業時刻の確認と記録
使用者には、労働者の始業・終業時刻を正確に把握し、記録する義務があります。自己申告制を採用している場合には、過重労働が発生していないか注意深く確認する必要があります。使用者は、従業員に対して労働時間管理の重要性を十分に説明し、定期的に実態調査を行い、記録の正確性を確認するなどの対応を行わなければいけません。始業・終業時刻以外の労働時間についても、正確に把握しましょう。
残業時間や休憩時間中の作業、出張時の移動時間も労働時間に含まれる可能性があります。労働時間の記録は、労働者の過重労働を防ぎ、適正な賃金を支払うために欠かせません。在宅勤務やテレワークでも適切な労働時間の管理が求められています。始業・終業時刻の確認や記録は、法令遵守の基本です。
労働時間の客観的記録
企業は、従業員の労働時間を把握し、記録する必要があります。客観的な記録方法は、以下のとおりです。
- ICカード
- パソコンの使用時間
- タイムカード
労使間で協議して記録方法を決めることも大切です。記録した時間と自己申告された時間に差がある場合は、実態を調査してください。客観的な記録がない場合は、適切な自己申告制の導入が求められます。客観的な記録を取れば、労働時間の実態を正確に把握でき、適切に労務管理が行えます。
労働時間の記録保存義務
法律に基づく労働時間の記録保存は、労働者の権利保護と適切な労務管理のために重要です。以下の点に注意して、労働時間の記録を保存してください。
- 3年間(5年間)の保存期間(※1)
- 賃金台帳や出勤簿
- 日々の労働時間
- 残業時間や休日労働
記録は、紙媒体またはデジタルデータで保存します。労働基準監督署の調査時に、すぐに提示できる形で管理しましょう。記録の改ざんや虚偽記載は法律違反(※2)となるため、避けてください。リスク管理のために、重要書類は定められた保存期間後も継続して保管することをおすすめします。
記録の保存方法や管理体制を社内で明確にすると、労働時間記録を確実に保存できます。労働時間の記録保存にあたっては、個人情報保護法(PIPL)やGDPR(※3)に基づき、適切なデータ保護措置を講じてください。電子データを使用する場合は暗号化やアクセス権の制御を推奨します。
※1 労働基準法第109条に基づく、2020年4月の労働基準法改正により3年から5年に延長。経過措置として当面の間は3年間の保管で問題ありません (2024年11月現在の法令)。
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※2 記録の改ざんや虚偽記載は労働基準法違反となり、罰則が科される可能性があります(労働基準法第120条/2024年11月現在の法令)。
※3 欧州連合(EU)域内における個人データの保護や取り扱いに関する法令です。EU加盟国に子会社や支店、営業所などを有している場合、適用対象となります。
労働時間管理者の役割
労働時間管理者は、従業員の労働時間を把握し管理する必要があります。従業員の健康と安全を守り、企業の生産性の向上に欠かせません。労働時間管理者の責任は、始業・終業時刻の確認と記録や、労働時間の客観的な記録方法の確立です。労働者への労働時間に関する説明と指導や、長時間労働の防止と是正なども含まれます。
労働時間管理者は、労働基準法などの法令を遵守するために、従業員の働き方の適切な管理が必要です。労働時間データの分析や改善提案を行えば、より効率的で健康的な職場環境の実現に貢献できます。労働時間管理者の役割は、単なる時間の記録だけでなく、従業員の健康と企業の生産性のバランスを取ることです。
適切な労働時間管理は、従業員満足度や企業の競争力向上につながります。
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賃金台帳の適正な調製
賃金台帳には、従業員ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数など給与計算に必要な事項を全て記入しなくてはなりません。賃金台帳にこれらの事項が記入されていなかった場合や、虚偽の労働時間を記入した場合は、労働基準法違反で処罰されるため注意しましょう。
労働時間等設定改善委員会等の活用
労働時間の管理が自己申告制の場合は、必要に応じて労働時間等設定改善委員会を設けることが望ましいとされています。当該委員会を活用して、労働時間管理の状況を把握し、問題点や解消策を検討しましょう。
労働時間ガイドラインの適用範囲と例外
労働時間ガイドラインは、原則としてすべての事業場と労働基準法が適用されるすべての労働者に適用されます。適用範囲を正しく理解し、適切な労働時間の管理が重要です。
適用範囲
労働時間ガイドラインは、労働基準法が適用されるすべての事業場に該当し、幅広い範囲の企業や労働者に関係があります。ガイドラインに該当する事業場は、以下のとおりです。
- 常時使用する労働者がいる企業
- すべての労働者
- 管理監督者や裁量労働制の適用者
事業規模や業種に関係なく適用されるため、すべての企業が対象です。労働時間ガイドラインは広範囲に適用され、多くの労働者の労働環境を改善できる可能性があります。
特例措置
労働時間ガイドラインには特例措置が設けられています。特例措置とは、一部の職種や業務に従事する労働者に対して、通常の労働時間規制とは異なる取り扱いを認めることです。対象となる主な職種や業務は、以下のとおりです。
- 管理監督者
- 高度プロフェッショナル制度の適用者
- 裁量労働制の適用者
- みなし労働時間制の適用者
- 農林水産業の従事者
- 家事使用人
- 警察官や消防士、自衛官
- 警備業務の従事者
- 交通機関の運転従事者
- 船員法適用の船員
- 医療や福祉サービスの従事者
- 季節的業務の従事者
- 研究開発業務の従事者
- 情報処理システム開発業務の従事者
上記の職種や業務に従事する労働者は、業務の特殊性や専門性から、通常の労働時間管理に適合しない場合があります。労働時間の柔軟な運用が認められているのが現状です。特例措置が適用されても、労働者の健康や安全が軽視されてはいけません。特例措置の対象となる労働者にも、適切な労働時間管理と健康管理が必要です。
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労働時間ガイドラインを遵守するメリット
労働時間ガイドラインを遵守するメリットは、以下のとおりです。
- 労働者の健康を維持できる
- 生産性が向上する
- 労働基準法違反による罰則を回避できる
企業イメージの向上や人材確保にも効果があります。企業と従業員の双方にとって重要で、持続的な成長と発展に貢献します。
労働者の健康を維持できる
労働時間を適切に管理すれば、過重労働による健康被害を防ぐことが可能です。長時間労働を続けると、心身の疲労が蓄積し、さまざまな健康問題につながる可能性があります。ガイドラインに沿った労働時間の管理は、メンタルヘルス問題が発生するリスクの低減や、ワークライフバランスの向上に寄与します。
適切な休息時間を確保し、労働災害リスクの減少に努めてください。労働者の健康維持は、健康管理にかかるコストも抑えられるため、企業にとってもメリットがあります。労働時間ガイドラインの遵守は、従業員の満足度や幸福度の向上につながります。企業の健康経営の推進に役立ち、長期的な成功につながる重要な要素です。
生産性が向上する
適切な労働時間管理をすれば、従業員の業務効率が上がり、企業全体の生産性が高まります。労働時間の可視化で業務の無駄を発見でき、改善が可能です。残業時間の削減や適切な休憩、休日の確保で従業員の集中力とモチベーションが向上し、仕事の質が上がります。
安定した生産性を保つには、従業員の健康を維持し、病欠や離職率を低下させることが重要です。従業員の時間意識が高まり、効率的な働き方が促進されると、創造性や問題解決能力が向上し、企業の競争力強化につながります。
労働基準法違反による罰則を回避できる
法令遵守は、企業の社会的責任です。立ち入り調査や是正勧告の回避、刑事罰の回避、訴訟リスクの軽減などのメリットがあります。労働環境が改善すると、従業員のモチベーション向上や人材の確保にも役立ちます。コンプライアンス違反による取引先からの信用失墜を防止できるため、ビジネス面でもメリットが大きいです。
労働災害のリスクを軽減し、関連する補償金や保険料の増加を抑えることも可能です。従業員と企業の双方にとって望ましい結果になるため、積極的に取り組みましょう。
労働時間ガイドラインを遵守する方法
労働時間ガイドラインを遵守するには、以下の方法が効果的です。
- 勤怠管理システムで正確な労働時間を記録する
- 労使間で36協定を結ぶ
- 自己申告の場合は実態調査や定期的な確認を行う
勤怠管理システムで正確な労働時間を記録する
勤怠管理システムを導入すれば、正確な労働時間の記録が可能です。勤怠管理システムを活用すれば、客観的な記録方法で自動計算や集計、リアルタイム管理などができます。クラウド型のシステムを選べば、場所を問わず労働時間の確認が可能です。勤怠データの改ざん防止機能も備わっているため、信頼性も高まります。
労働基準法にもとづいた労働時間管理レポートも自動で作成でき、法令遵守の面でも役立ちます。従業員のスマートフォンやPCからの打刻に対応しているシステムも多く、柔軟な勤怠管理が可能です。勤怠データと給与計算システムを連携させれば、業務効率化にもつながります。
長時間労働の予兆の把握や36協定違反の防止にも活用できるため、労働環境の改善にも効果が期待できます。
労使間で36協定を結ぶ
36協定は、法定労働時間を超えて従業員に残業をさせる際に必要です。36協定を結ぶ際は、以下の点に注意してください。
- 労働者の過半数代表と使用者で締結
- 延長時間の上限や対象期間を明記
- 労働基準監督署長に届け出
» 厚生労働省「36協定の締結・届出のポイント」(外部サイト)
協定を結んだ後は、従業員に内容を周知することが大切です。協定の範囲内であっても、従業員の健康確保に努めましょう。健康確保措置として、ストレスチェックや産業医との連携など、労働安全衛生法に基づく具体的な対策の実施が推奨されます。
» 厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」(外部サイト)
36協定の有効期間は通常1年間ですが、特別条項を付ければ、臨時的な事情に基づく残業時間の延長も認められます。過半数代表者の選出方法には、公平性の確保や選出プロセスの透明性などの注意が必要です。候補者が経営側と利害関係を持たないようにし、公平性を確保してください。選挙や投票による選出が一般的です。
過半数代表者を選出する際、収集した個人情報は個人情報保護法に基づき適切に取り扱う必要があります。選挙やアンケートで収集した情報は、選出目的以外に使用しないようにしてください。
»医師の36協定とは?適切な労働時間管理の管理について解説
自己申告の場合は実態調査や定期的な確認を行う
自己申告制での労働時間管理では、定期的な実態調査を実施し、実際の労働時間と申告内容の照合が大切です。管理者による労働状況の観察や定期的なアンケート、タイムカードや入退室記録との照合などを行いましょう。自己申告と実態に差異がある場合は、原因を調査し、適切な対応を取る必要があります。
従業員には、正確な労働時間を申告する重要性を伝えましょう。定期的な確認と改善を行えば、自己申告の信頼性を高め、適切な労働時間管理を実現できます。
労働時間ガイドラインの注意点
労働時間ガイドラインの運用の注意点は、以下のとおりです。
- 休憩や休日を適切に付与する
- 年次有給休暇を計画的に取得させる
- 管理職の教育を徹底する
注意点に気を配れば、従業員の健康と生産性を守りつつ、法令遵守を実現できます。働きやすい職場環境の構築も可能です。
休憩や休日を適切に付与する
休憩や休日の適切な付与は、従業員の健康と生産性を維持するために重要です。労働基準法にもとづいて、適切な休憩時間と休日を確保しましょう。適切な休憩や休日に大切な要素は、以下のとおりです。
- 法定の休憩時間
- 週1日以上の休日
- 適切な休息期間
- 労働からの解放
- リラックスできる休憩場所
休憩や休日の取得状況も管理や記録をしてください。休日出勤の場合は代休を付与し、長時間労働者には追加の休憩を与えるなどの配慮も忘れてはいけません。業務の繁閑に応じたスケジュールを調整すれば、より効果的な運用が可能です。
年次有給休暇を計画的に取得させる
年次有給休暇を計画的に取得させることは、従業員の健康維持とワークライフバランスの向上につながります。会社全体で休暇取得を推進する体制を整えましょう。年間休暇取得計画の作成や促進キャンペーンの実施、個別の声かけが効果的です。従業員が気兼ねなく休暇を取得できる環境を整えられます。
休暇取得を促進するだけでなく、適切な管理も必要です。有給休暇の取得状況を定期的にモニタリングすれば、公平で効果的な休暇取得を実現できます。経営層や管理職が率先して休暇を取得すれば、従業員全体の意識改革にもつながります。休暇取得の阻害要因を特定し、改善策を講じることも大切です。
特定の人に依存した業務の運用を防ぎ、相互にカバーできる体制を整えれば、安心して休暇を取れる職場環境を実現できます。
管理職の教育を徹底する
適切な労働時間管理を実現するには、管理職の理解と協力が不可欠です。定期的な労働時間管理研修の実施やガイドラインの説明、管理責任の明確化を行いましょう。長時間労働防止策の指導や最新の法令、判例の共有も有効です。
教育を通じて管理職のコミュニケーションスキルを向上させ、ワークライフバランスの重要性を理解できます。自身の労働時間管理の徹底も大切です。定期的な労働時間の管理状況を報告すれば、管理職の意識向上と継続的な改善が期待できます。
まとめ
労働時間ガイドラインの遵守は、企業にとって重要な課題です。正確な労働時間の記録と管理が求められており、始業・終業時刻の確認と客観的な記録が不可欠です。労働時間管理者の役割を明確にし、適用範囲と例外を理解しましょう。ガイドラインを守れば、労働者の健康維持と生産性向上につながります。
勤怠管理システムの活用や従業員側との36協定の締結、適切な休憩や休暇の管理が重要です。管理職への教育の徹底も忘れてはいけません。労働時間ガイドラインを正しく理解して実践すれば、働きやすい職場環境づくりに役立ちます。