医療情報システムとは?主な種類と導入メリット・リスクを徹底解説
病院は日々膨大な患者情報を扱い、複雑な業務をこなしています。業務に適切なシステムを導入すれば、医療の質を向上させられます。医療情報システムは、患者情報の一元管理や業務効率化を実現する強力なツールです。
本記事では、医療情報システムの概要や種類、導入するメリットなどを詳しく解説します。記事を読めば、医療情報システムについての理解が深まり、最適なシステムを選ぶための知識が得られます。
医療情報システムとは患者情報を管理し業務を効率化するシステム
医療情報システムは、現代の病院にとって不可欠なツールです。医療情報システムの概要として、以下の2点を解説します。
- 医療情報システムの目的
- 医療情報システムの歴史
医療情報システムの目的
医療情報システムの主な目的は以下のとおりです。
- 患者情報の正確な管理
- 医療スタッフの業務効率化
- 安全な医療の提供
- 医療費の適切な管理
- 病院間の情報共有
医療情報システムは診療のサポートだけでなく、データ分析や研究にも役立ちます。患者の待ち時間を減らし、満足度を向上させられます。患者と医療スタッフの双方により良い医療環境を作り出すための重要なツールであり、現代の医療に欠かせません。
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医療情報システムの歴史
医療情報システムの歴史は、1960年代に遡ります。医事会計システムとして導入され、急速に発展しました。1970年代にはオーダリングシステムが開発され、病院での業務効率が大幅に向上しました。1980年代に入ると各診療科や検査部門など、病院内のさまざまな部門で専用のシステムが使われます。
1990年代には、電子カルテシステムの開発と試験導入が行われ、紙のカルテからの移行が始まりました。2000年代に入ると電子カルテシステムが本格的に普及し、医療情報の管理方法が大きく変わります。2010年代にはクラウド型医療情報システムが登場し、現在ではより柔軟で効率的なデータ管理が可能です。
現在はAIやIoTの技術を活用したシステムも開発されています。地域医療連携システムの発展により、病院間での情報共有も可能です。医療情報システムは時代とともに進化を続け、患者へのサービス向上や医療の質の改善に大きく貢献しています。
医療情報システムの主な種類
医療情報システムの主な種類は以下のとおりです。各種類の機能や特徴を解説します。
- 電子カルテ
- オーダリングシステム
- レセプトコンピュータシステム
- PACS(医療用画像管理システム)
- 検査システム
- 調剤システム
電子カルテ
電子カルテは、患者の診療記録を電子化して管理するシステムです。紙のカルテに代わるものとして、多くの病院で導入されています。患者の情報を一元管理でき、医師や看護師など複数の医療スタッフが情報を簡単に共有できる点が特徴です。電子カルテには以下のメリットがあります。
- 手書きによる間違いが防止できる
- スムーズな処方・検査が指示できる
- 診療サポート機能を使用できる
- データ分析・統計処理ができる
電子カルテを活用すれば、診療の質を高め、医療の安全性を向上させられます。電子カルテの導入にはコストがかかり、スタッフの教育も必要なため、導入前の準備は欠かせません。
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オーダリングシステム
オーダリングシステムは、医師の指示を電子化して伝達するシステムです。検査や処方、食事などの指示を、電子的に発行・管理します。オーダリングシステムの使用には、以下のメリットがあります。
- 検査や投薬の重複防止ができる
- 医療の質と安全性が向上する
- 電子カルテシステムと連携できる
オーダリングシステムは、病院の規模や診療科に応じてカスタマイズが可能です。導入には初期コストと運用コストがかかるため、導入の際は予算についても検討しましょう。
レセプトコンピュータシステム
レセプトコンピュータシステムは、病院の診療報酬請求事務を効率化する重要なツールです。レセプトコンピュータシステムでは以下の業務ができます。
- レセプト(診療報酬明細書)の作成と管理
- 患者情報や診療内容の入力
- 診療報酬改定への対応
- 電子レセプト請求
- レセプトチェック
- 統計・分析
レセプトコンピュータシステムの活用により、医療機関の事務作業の効率化が可能です。レセプトチェック機能を使えば、請求漏れや算定ミスを防げます。統計・分析機能を活用すれば、病院の経営指標の把握もできます。
複数の医療機関で使用できるネットワーク対応型のシステムも存在するため、大規模な医療グループでの導入も可能です。
PACS(医療用画像管理システム)
PACS(医療用画像管理システム)では、CTやMRI、X線などの医療画像のデジタル化と一元管理が可能です。PACSには以下の特徴があります。
- 医療画像の即時閲覧や共有が可能
- 画像の劣化を防ぎ長期保存が可能
- 画像の検索や比較が容易
- 遠隔診断や遠隔医療のサポートが可能
PACS導入のメリットは以下のとおりです。
- フィルムレス化によりコスト削減できる
- 圧縮技術により保存容量を削減できる
- 他のシステムと連携し総合的な患者情報の管理ができる
- セキュリティ機能で患者情報を安全に保護できる
PACSは、画像処理や3D再構成などの高度な機能も提供しています。診断効率の向上や医療の質の改善にも大きく貢献するツールです。
検査システム
検査システムでは、検体検査や生理検査の一元管理が可能です。検査オーダーの受付から結果報告までを一括して管理します。検査機器と連携して自動で結果を取り込むので、人為的なミスを減らせます。過去の検査結果との比較や異常値の自動検出ができるため、医師の診断をサポートすることが可能です。
検査システムを導入すれば、検査履歴の長期保存と参照が簡単にできます。導入の際は、病院の規模や特性に合わせたシステムを選びましょう。
調剤システム
調剤システムは、薬局や病院の薬剤部門で使用されるシステムです。調剤システムの主な機能には以下が挙げられます。
- 処方箋の電子化
- 調剤業務の効率化
- 薬の在庫管理や発注の自動化
- 薬歴管理や服薬指導の記録の電子化
- 処方箋の入力ミスチェック
- 重複投薬のチェック
- 薬剤情報の提供
- 副作用のアラート機能
調剤システムは他のシステムとも連携します。電子カルテシステムと連携すれば、医師と薬剤師の間で情報共有がスムーズです。調剤報酬請求の精度が上がり事務作業の時間も短縮できるため、業務の効率化が可能です。
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医療情報システムを導入するメリット
医療情報システムの導入には、患者と医療スタッフの双方にとって多くのメリットがあります。以下の5つのメリットを解説します。
- 業務効率が改善する
- 情報の共有がしやすくなる
- カルテの誤記入を防げる
- 患者の待ち時間が短縮される
- 治療の質が向上する
業務効率が改善する
医療情報システムの導入が業務効率の改善につながる理由は、以下のとおりです。
- 事務作業の自動化ができる
- データ入力・検索が高速化する
- 作業の重複が削減できる
- 紙の書類を削減できる
- スケジュール管理が簡易化される
医療情報システムの導入により同じ作業の繰り返しが不要なため、時間の有効活用が可能です。紙の書類が減ることで、保管場所や管理コストも削減できます。スケジュール管理が簡単で、効率的な人員配置も可能です。
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情報の共有がしやすくなる
医療情報システムを導入すれば、部門間や病院間でリアルタイムに情報を共有できます。具体的には以下の情報の共有が可能です。
- 患者の治療履歴
- 投薬情報
- 検査結果
- 画像データ
- 患者への説明や指導に必要な情報
医療情報システムの導入により、多職種間のコミュニケーションを円滑にできます。遠隔地の専門医との相談や診断も迅速に行えるため、より質の高い医療を提供できます。緊急時や災害時にも、患者情報を素早く共有できる点は大きなメリットです。
カルテの誤記入を防げる
電子カルテシステムを導入すれば、誤記入のリスクを大幅に減らせます。誤記入を防ぐための具体的な機能は以下のとおりです。
- 入力ミスの自動チェック機能
- 入力補助機能
- 過去の診療履歴や検査結果の参照機能
- 医療用語や薬剤名の標準化機能
- 重要情報のアラート機能
- テンプレート機能
電子カルテは複数の医療スタッフが情報を共有できるので、相互チェックが可能です。手書きによる判読ミスが起こらないため、より正確に情報を管理ができます。
患者の待ち時間が短縮される
医療情報システムを導入すれば、診療の流れがスムーズになり、患者の待ち時間を短縮できます。具体的には以下の方法で、患者の待ち時間を短縮することが可能です。
- 受付から会計までの効率化
- 過去の診療情報の参照
- 予約システムの導入
- 診察室の空き状況の把握
- 処方箋の電子化
- 診察前の問診や検査結果の入力効率化
- 緊急性の高い患者への優先対応
- 検査や処置の予約管理
患者の待ち時間が短縮されると、説明のための時間を確保しやすく、丁寧な診療ができます。待ち時間の短縮は、患者と医療機関の双方にとって大きなメリットです。
治療の質が向上する
医療情報システムの導入により、治療の質が大きく向上する理由は、以下のとおりです。
- 診療データの蓄積と分析が容易
- 医療ミスの防止や早期発見が可能
- 他の病院との協力が容易
- 専門家の意見を得やすい
- 最新の医療情報へのアクセスが容易
- 新しい治療法の導入が容易
- 医療スタッフ間のコミュニケーションの改善
容易に診療データの蓄積と分析できると、根拠に基づいた治療ができます。患者の病状の経過もより効果的に見守れます。より安全で効果的な治療の提供が可能になる点も、医療情報システムのメリットです。
医療情報システムを導入する際の注意点
医療情報システムを導入する際の注意点は、以下のとおりです。
- 操作に慣れるまで時間がかかる場合がある
- 運用コストがかかる
- 停電時に使用できない場合がある
操作に慣れるまで時間がかかる場合がある
新しい医療情報システムを導入すると、スタッフが操作に慣れるまでに時間がかかる場合があります。システムの複雑さや職員の習熟度によってかかる時間は異なりますが、導入初期は業務効率が低下する可能性があります。以下の適切な対策を取り、問題を最小限に抑えましょう。
- 十分なトレーニング期間と研修期間を設ける
- わかりやすいマニュアルを整備する
- ヘルプデスクやサポート体制を整える
- 定期的な操作確認の機会を設ける
スタッフの年齢やITスキルの習熟度によって差が出る場合があるため、個々の状況に応じてサポートすることが大切です。使いやすいユーザーインターフェースを持つシステムを選ぶと、操作習得の時間を短縮できます。
運用コストがかかる
医療情報システムを導入する際は、初期導入コストだけでなく、継続的な運用コストがかかります。運用コストの内訳は以下のとおりです。
- 保守・メンテナンスコスト
- システムのアップデートや機能追加のコスト
- サーバーやネットワーク機器の維持管理コスト
- セキュリティ対策コスト
- データのバックアップやリカバリーのコスト
- システム運用のための専門スタッフの人件コスト
- トレーニングコスト
- ライセンス更新料と使用料
- システム稼働のための電気代
医療情報システムの運用コストは、病院の規模や導入するシステムによって異なります。長期的な視点で運用コストを考慮し、病院の経営計画に組み込んでください。
停電時に使用できない場合がある
バックアップ電源がないシステムは、停電時に使用できない可能性があります。停電時でも使用するためには、UPS(無停電電源装置)の導入が不可欠です。UPSは一時的に電力を供給し、システムを安定して稼働させます。長時間の停電に備えるには、以下の対策も実施しましょう。
- 非常用発電機の設置
- 停電時の対応手順の事前策定
- 紙ベースのバックアップシステムの用意
クラウドベースのシステムを使用している場合には、端末が使えなくなる可能性があるため注意が必要です。停電が復旧した後は、データの同期や整合性の確認も欠かせません。
医療情報システムの選び方
医療情報システムを選ぶ際は、以下の点を検討しましょう。
- ニーズに合ったシステムを選ぶ
- システムのサポート体制で選ぶ
- コストパフォーマンスで選ぶ
ニーズに合ったシステムを選ぶ
診療科や病院規模に適したシステムを選択すれば、より効率的な運用が可能です。システムを選ぶ際は以下のポイントに注目しましょう。
- インターフェースの使いやすさ
- 導入実績や評判
- カスタマイズ性
システムの導入前には、デモンストレーションや試用期間を活用し、実際に使ってみてください。医療制度の変更に柔軟に対応できるシステムを選べば、長期的な運用が可能です。
システムのサポート体制で選ぶ
システムのサポート体制は、医療情報システムを選ぶ際の重要な要素です。病院ではシステムのトラブルが患者の安全に直結するため、迅速な対応が求められます。トラブル発生時の対応スピードを確認しましょう。具体的には、以下のポイントをチェックしてください。
- 遠隔サポートの可否
- メンテナンスとアップデートの頻度
- カスタマイズ性
- トレーニングマニュアル
- ユーザーコミュニティ
専門のサポートスタッフが配置されているかどうかも重要なポイントです。必要に応じてオンラインサポートを受けられるかも確認しましょう。システム導入後のフォローアップ体制も忘れずにチェックしてください。
コストパフォーマンスで選ぶ
初期コストと運用コストのバランスや、機能と価格のバランスなどのコストパフォーマンスを比較して検討してください。具体的には、以下の点に注目しましょう。
- 導入後のランニングコスト
- 保守・サポートコスト
- 将来的な拡張性と更新費コスト
- 導入による業務効率化や経費削減効果
医療情報システムを比較検討する際は、他の医療機関の導入事例を参考にします。無料トライアル期間を利用して実際の使用感を確認するのも良い方法です。リース契約やサブスクリプション型の料金プランもコスト削減に役立ちます。コストだけでなく、システム導入による価値も考慮に入れましょう。
まとめ
医療情報システムは、病院の業務効率化に大きく貢献します。患者の診療記録や医師の指示などを一元管理でき、病院運営にとって欠かせないツールです。業務効率の改善や情報共有の円滑化、ミスの削減などのメリットがあります。新しいシステムに慣れるまでに時間がかかる場合もあるため、導入の際は十分な準備が必要です。
システム選びの際は、病院の規模やニーズに合ったものを選ぶことが大切です。サポート体制やコストパフォーマンスについても検討しましょう。適切な医療情報システムを導入すれば、より質の高い医療サービスの提供につながります。