医療クラウドとは?導入のメリット5選と導入の流れを徹底解説!
病院の勤怠管理やカルテの記入、患者データの管理など、医療現場では日々、膨大な情報を扱っています。医療における煩雑な業務で役立つのが「医療クラウド」です。医療クラウドとは、医療に関するデータやシステムをインターネット上で管理する仕組みのことです。
この記事では、医療クラウドが注目される背景や具体的なメリット、主なサービス、導入方法までを詳しく解説します。医療クラウドを導入すれば、より質の高い医療サービス提供が可能です。
医療関係者の方はもちろん、患者やご家族の方にとっても、これからの医療のあり方を知るうえで役立つ情報をお届けします。ぜひ最後までお読みください。
医療クラウドが注目される背景
医療クラウドが注目を集めている背景には、医療を取り巻く環境の大きな変化があります。医療クラウドが注目される背景は以下のとおりです。
- 医療業界のデジタル化の進展
- 患者のデータ管理の複雑化
- 医療機関同士の連携の必要性
医療業界のデジタル化の進展
医療業界のデジタル化は、ここ数年で急速に進んでいます。かつては紙のカルテが当たり前でしたが、今では多くの病院で電子カルテが導入されています。診療所でも、タブレットを使って患者の情報を入力する光景が増えました。
最近では、AIを活用した画像診断支援システムなどの、先端技術を活用した新しい医療サービスが次々と登場しています。ウェアラブルデバイスによる健康管理などもデジタル化の恩恵です。スマートウォッチで24時間心拍数を計測し、異常があればすぐに主治医に通知するようなシステムも実用化されつつあります。
デジタル化の波は医療の質を向上させるだけでなく、医療従事者の負担軽減にもつながっています。膨大なデジタルデータを安全に管理し、効率的に活用する際にも医療クラウドは欠かせない存在です。
患者のデータ管理の複雑化
医療技術の進歩に伴い、患者の診療データは増加の一途をたどっています。過去の医療現場では、診療記録と数枚のレントゲン写真だけで診療を行うこともありました。しかし、現代では詳細な血液検査結果や高解像度CT画像、遺伝子情報など多様なデータを取り扱うため、管理が必要です。
患者によっては、画像データだけでもかなりの容量を使用する場合があります。病院内サーバーでの管理は膨大なストレージを要すため、データ量増加に伴って必要情報の迅速な取り出しが困難になります。
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個人情報保護法の厳格化により、患者データ管理には高度なセキュリティ対策が求められるようになりました。安全かつ効率的なデータ管理を実現する手段として、医療クラウドが注目を集めています。
医療機関同士の連携の必要性
医療機関同士の連携は年々重要性を増しています。大病院での入院治療後、地域のかかりつけ医で継続的な治療を受けるケースが増加しているからです。病院とかかりつけ医間での正確な患者情報共有が必要不可欠です。専門医による遠隔診療や緊急時の迅速な情報共有など、医療機関を越えた連携の需要が高まっています。
救急搬送された患者の過去の診療記録をすぐに確認できれば、より適切で迅速な治療が可能です。従来のシステムでは、連携の実現は困難でした。医療クラウドを活用すれば、必要なときに必要な情報にアクセスできるので、よりスムーズな医療連携が実現します。
医療クラウドのメリット
医療クラウドは、医療機関の業務効率化と患者サービス向上に貢献します。主なメリットは以下のとおりです。
- コストの削減
- データの共有とアクセスのしやすさ
- データ損失リスクの軽減
- システムのメンテナンス・更新が容易
- BCP(事業継続計画)の確保
コストの削減
医療クラウドの導入により、病院の運営コストを大幅に削減できます。従来のシステムでは、サーバーやストレージなどの機器を病院内に設置し、専門のIT担当者による管理が必要でした。
医療クラウドを利用すると、機器購入や維持管理のコストを抑えられます。中規模病院では年間のIT関連費用を20~30%削減できたケースもあります。必要に応じた利用量の調整を行うと、無駄な支出を減らすことが可能です。
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システム更新や新機能追加もクラウド事業者が一括して行うため、病院側の負担が軽減されます。長期的視点でも、大きなコスト削減効果が期待できます。
データの共有とアクセスのしやすさ
医療クラウドの大きなメリットは、データ共有とアクセスの容易さです。具体的なメリットは以下のとおりです。
- 院内外からの情報アクセスが可能である
- 複数スタッフによる同時閲覧・編集ができる
- リアルタイムで情報が更新される
- 遠隔地からカルテを確認できる
- 医療機関間でデータの共有が可能である
上記の特徴により、医療サービスの質と効率が大幅に向上します。夜間の緊急時でも担当医が自宅からスムーズにカルテを確認し、適切な指示を出すことが可能です。複数の医療機関でデータを共有すると、患者さんはどの病院でも一貫した治療を受けられます。
データ損失リスクの軽減
医療クラウドは、重要な医療データを守る強力な味方です。従来の院内サーバー管理では、火災や地震などの災害でデータ消失のリスクがありました。医療クラウドを利用することでデータ消失のリスクを大幅に軽減できます。
クラウドサービスでは、データを複数のデータセンターに分散保存することができます。東京と大阪のデータセンターに同じデータを保存すれば、一方が被災しても他方からデータを復旧することが可能です。定期的な自動バックアップが行われるので、人為的ミスによるデータ損失も防げます。
高度なセキュリティ対策により、サイバー攻撃などによるデータ漏洩リスクも低くなります。患者の機密性の高い個人情報を含む医療データに、堅牢な保護は重要です。
システムのメンテナンス・更新が容易
医療クラウドの利用により、システムのメンテナンスや更新が大幅に簡素化されます。主なメリットは以下のとおりです。
- 自動的なソフトウェアの更新
- セキュリティパッチの自動適用
- 病院側の作業負担の軽減
- システムの一時停止が不要
- 柔軟なリソースの拡張
上記の特徴により、医療機関は常に最新かつ安全なシステムを利用できます。従来のオンプレミス型システムでは、更新作業に時間と手間がかかり、システムの一時停止が必要になる場合がありました。しかし、クラウドサービスでは、システムを止めることなく自動で行えます。
患者数の増加や新部門の開設時にも、クリック1つでリソースを追加できるため、医療機関の成長への対応が容易です。医療スタッフはシステム管理の負担から解放され、本来の医療サービスに集中できます。
BCP(事業継続計画)の確保
医療クラウドは、災害時や緊急時のBCP確保に大きく貢献します。病院にとってBCPは極めて重要です。災害時こそ医療サービスが最も必要とされるからです。医療クラウドを利用していると、院内システムが被害を受けてもクラウド上のデータにアクセスできるので、診療を継続できます。
大規模地震で病院建物が被害を受けた場合、従来のシステムでは院内サーバーが使用不能でした。サーバーが使えないと、患者情報へのアクセスができずとても不便でした。しかし、医療クラウドなら別の安全な場所から患者データにアクセスでき、迅速な医療サービスを提供できます。
クラウドサービスには、複数拠点にデータセンターを持つ仕組みがあります。ある地域で災害が発生しても、別地域のデータセンターからサービスを継続できます。医療クラウドは緊急時の医療サービス継続性を高め、患者の安全を守る重要な役割を果たします。
医療クラウドの主なサービス
医療クラウドには多様なサービスがあります。各サービスは医療機関の業務効率化や患者サービス向上に欠かせません。主なサービスを見ていきます。
電子カルテシステム
電子カルテシステムは、患者の診療記録を電子化して管理可能です。医師や看護師が同時に閲覧・編集できるため、チーム医療の質が向上します。過去の診療履歴をすぐに確認でき、より適切な診断や治療が可能です。
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クラウド型電子カルテは、データがインターネット上のサーバーに保存されるため、院内のどこからでもアクセスできます。セキュリティ対策により、データの紛失や盗難リスクも低くなります。
夜間の緊急対応時に担当医が自宅からカルテを確認することも容易です。複数診療科にまたがる患者情報も一元管理できるので、より包括的な医療サービスの提供ができます。
Web予約システム
Web予約システムは、患者の利便性向上と医療機関の業務効率化に大きく貢献します。Web予約システムの主なメリットは以下のとおりです。
- 24時間365日の予約受付
- リアルタイムで空き状況を確認
- オンラインで予約変更・キャンセル
- 医療機関の電話対応の負担軽減
- 予約重複や混雑の回避
Web予約システムにより、患者は都合の良い時間に診療予約を取れます。仕事で忙しい方が深夜に翌週の予約を入れたり、海外旅行中の方が帰国後の健康診断を予約したりすることが可能です。
医療機関側は効率的なスケジュール管理が可能です。予約状況がリアルタイムで更新されるため、予約の重複や待ち時間を軽減できます。患者さんの満足度向上と医療機関の業務効率化が同時に実現します。
Web問診システム
Web問診システムは、患者が来院前にインターネットで問診票を入力できるサービスです。従来の紙の問診票と比べ、記入漏れや判読ミスが減少し、より正確な情報収集が可能になります。患者の待ち時間短縮にもつながります。
クラウド型Web問診システムでは、入力データが自動的に電子カルテと連携する点が魅力的です。医師は診察前に患者の状態を把握でき、より効率的で質の高い診療が実現します。過去の問診データとの比較で、症状の変化を確認するのも容易です。
慢性疾患の患者が定期的に症状を入力することで、医師が経過を継続的に観察できます。感染症流行時には、発熱や咳などの症状をあらかじめ把握できるので、院内感染リスク低減としても有効な方法です。
オーダリングシステム
オーダリングシステムは、医療業務の効率化と安全性向上に大きく貢献します。オーダリングシステムの主なメリットは以下のとおりです。
- 医師の指示を電子化できる
- 読み間違いや記入ミスが減る
- 部門間の情報を即時に共有できる
- 薬剤の重複・相互作用チェックができる
- 業務スピードが向上する
上記のシステムにより、医療現場の業務フローが大幅に改善されます。緊急検査が必要な場合、医師がオーダーを入力すると同時に検査部門が準備を開始できます。薬剤の重複チェックや相互作用のチェックが自動で行われるため、医療の安全性も高いです。
患者にとっては、待ち時間の短縮や医療ミスリスクが低くなるというメリットがあります。医療スタッフの負担軽減と患者サービスの向上が同時に実現し、より質の高い医療の提供が可能になります。
診療データ分析基盤
診療データ分析基盤は蓄積された医療データを分析し、診療や経営の改善に活用するシステムです。個々の患者の診療履歴だけでなく、病院全体の診療傾向や治療成績などを把握できます。
クラウド型診療データ分析基盤では、大量のデータを高速で処理可能です。AIやビッグデータ解析技術を駆使し、複雑なパターンや相関関係を見出せます。科学的根拠に基づいた医療(EBM)の実践がより容易になります。
特定疾患に対する治療法の効果を統計的に分析すると、最適な治療方針の選択が可能です。地域の疾病傾向を把握できる可能性があり、予防医療の強化が期待されています。経営面では、診療科ごとの収益性分析や医療材料の使用状況分析が可能になり、病院運営の効率化に役立ちます。
医療クラウドの導入方法
医療クラウドの導入には慎重な計画と段階的な実施が重要です。現状分析や要件定義、適切なサービス選定やセキュリティ対策の実施が必要です。具体的な導入手順は以下のとおりです。
- 現状分析と要件定義
- クラウドサービスの選定
- セキュリティ対策の実施
- 移行計画の策定と実行
現状分析と要件定義
医療クラウド導入を成功させるためには、現状分析と要件定義が必要です。現状分析では既存のシステムや業務フローの課題を洗い出し、要件定義ではクラウド導入後に必要な機能や性能を明確にします。現在の紙カルテ運用の問題点を列挙し、電子カルテ導入後の理想像を具体的にイメージすることが大切です。
要件定義では必要機能だけでなく、セキュリティレベルや運用体制、コスト面での制約も考慮しましょう。医療機関の規模や特性、将来的な拡張性も加味し、最適なクラウドサービス選定の基準を設定してください。綿密な現状分析と要件定義が、スムーズなクラウド導入の土台になります。
クラウドサービスの選定
適切なクラウドサービスの選択は、医療クラウド導入の成否を左右する重要なステップです。クラウドサービスの選定の際に考慮すべき主なポイントは以下のとおりです。
- 必要機能の充足度
- セキュリティ対策が強固
- 初期費用と運用コスト
- サポート体制の充実度
- 他医療機関での導入実績
さまざまな点を多角的に評価すると、自院に最適なサービスを選定できます。要件定義で明確にした機能や性能を満たしているか確認しましょう。医療情報の取り扱いに関する各種ガイドラインへの準拠や、データセンターの安全性など、セキュリティ面のチェックも大切です。
コスト面では、初期費用や長期的な運用コスト、将来の拡張時のコストも考慮しましょう。24時間365日の対応可否やトラブル時の復旧所要時間など、サポート体制の充実度も重要です。他の医療機関での導入実績や評判も参考になります。
セキュリティ対策の実施
医療クラウド導入において、セキュリティ対策は最重要課題の一つです。患者の個人情報や診療データを扱うため、高度なセキュリティ対策が求められます。適切な対策でデータ漏洩や不正アクセスのリスクを最小限に抑えられます。
セキュリティ対策の手段として、アクセス制御を厳格に行いましょう。多要素認証を採用し、権限管理を徹底します。データの暗号化も重要で、保存データと通信時のデータ両方を暗号化し、盗聴や改ざんを防ぎましょう。定期的なセキュリティ監査やペネトレーションテストで脆弱性を確認してください。
職員向けセキュリティ教育も欠かせません。パスワード管理の徹底やフィッシング詐欺対策など、人的ミスによるセキュリティリスクを最小限に抑えてください。クラウドサービス提供者と協力し、定期的なセキュリティ評価や改善を行なって、常に高いセキュリティレベルを維持しましょう。
移行計画の策定と実行
医療クラウドへの移行は慎重に計画し、段階的に実施する必要があります。効果的な移行のための主なステップは以下のとおりです。
- 詳細なスケジュール作成
- リスク管理計画の策定
- データ移行手順の確立
- テスト環境での検証
- 段階的な導入アプローチ
- 職員向け研修の実施
- 並行稼働期間の設定
- 定期的な評価と改善
上記のステップを着実に実行すると、スムーズなクラウド導入が可能になります。重要なのは、既存システムからのデータの移行です。データの整合性や完全性を確保しながら慎重に進めましょう。小規模な部門から始めて問題点を洗い出し、改善してから全体に展開する段階的なアプローチが効果的です。
職員向けの研修も欠かせません。新システムの操作方法や運用ルールを事前に周知すると、混乱を最小限に抑えられます。一定期間の並行稼働を設けて、新旧システムの整合性を確認すると、安全な移行が実現できます。移行後も定期的な評価と改善を行い、クラウドシステムの利点を最大限に活かせるよう努めましょう。
計画的かつ慎重な移行により、業務の中断を最小限に抑え、スムーズな医療クラウド導入を実現できます。
まとめ
医療クラウドは、医療機関の業務効率化と医療サービスの質向上に大きく貢献します。コスト削減やデータ共有の容易さ、セキュリティの向上など導入するメリットは多いです。電子カルテやWeb予約システムなど、さまざまなサービスが提供されており、各医療機関のニーズに合わせて選択できます。
導入にあたっては、現状分析や要件定義、適切なサービス選定、セキュリティ対策などを考慮して、慎重な計画と実行が必要です。医療クラウドを上手に活用すると、患者へのサービス向上はもちろん、医療スタッフの働き方改革にもつながります。医療のデジタル化が進む現代において、医療クラウドは欠かせない存在です。
» 医師の働き方改革の問題点を徹底解析